2008年07月04日

写真屋が「パスを描く」ということ(第1回)

浅草神社でよく見かける猫
「パス描くだけのバイト雇いたいくらだよ」
「だってねアレ、ホント時間かかるからさ」
「アレやりだしちゃうとさー仕事にならないんだよなー」

ウチにあまり仕事をくれなくなってしまった
あるデザイナーさんが、
だいぶ前にこう言っていた。

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ここでいう「パスを描く」とは何か?。

一般の趣味写真の方だと何ソレ?かもしれないが、
アドビ社Photoshopをお使いなら、
「選択範囲」をつくるやり方のひとつとしてご存知だろう。

が、どちらかといえば、
同社ソフトIllustratorにおける図形描画の基本動作、
と言ったほうがいいかもしれない。
デザイン関係の人なら
恐らくこいつができないと話にならない。
同ソフト教則本なら大抵アタマの方にでてくる。

商業印刷の現場で
主に写真や絵柄を欲しい部分だけ切り抜く時
(単に背景を消したり、合成画像をつくるため等)には、
ペンツールってヤツを使ってパスを描いて行うのが、
標準的なやり方とおもわれる。

私の力量では言葉での表現↑が難しいので
詳細説明は避けるが、
物凄く大事でありながら
とても骨の折れる作業であることは間違いない。

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いわずもがなであるが、
この「パスを描く」という作業自体は、
フィルム時代であれば
そもそもPCなんか使ってなかったわけで、
完全に写真屋の領分ではなかった。
ポジまたはネガないしプリントを納めれば
写真屋の仕事はさしあたり完了だからである。
その先の「切り抜き」は、
デザイナーさんや製販屋さんの領域である。

しかし、
写真(工程)の多くがデジタル化され
街の写真屋もPhotoshopを扱うのが不思議でない現在、
その辺の境が曖昧だ。
写真屋でもレタッチ得意な方なら、
「選択範囲」作成時に
この「パス」も問題なくこなす人もいるだろう。

ただ我々ににとってこの作業自体は、
さほど重要ではないのかもしれない。
なぜなら、
それを用いなくともレタッチ(「切り抜き」も)は可能だからだ。
ウチはパスなんてほとんど使わない。
理由は単に難しくてかったるいからである(時々練習はする)。
仕事の仕方までコト細かく
お客に指示されることは無いワケだから、
自分なりにやり易いやり方でやっている。

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さて、
ウチはブツ撮りの際、
いわゆる「カクハン(角版)」と言われるヤツしか
やったことがない。
「カクハン」とは、
ブツ撮り等でキチンと背景紙などをセットして撮影されたものを、
切り抜いたりせずにそのママ使うこと、
またはそのための写真(ポジなど)をいう。

なぜウチがカクハンのみなのかは分からない。
親父が修行した店などでやらなかったからできないとか、
そうでない必要性がなかったからなのか。
いずれにしても、
ブツを宙に浮かせた状態にして
乳白アクリルや黒ケント等をセットしたりする
ビューカメラ(大判)なんかでの王道的なブツ撮りは、
書籍でしか見たことがない。
まあ、そうしなければならない仕事は来なかった、
ということだとおもう。

実はこの「カクハン」という業界用語、
使っているの聞いたこともないのだが。

基本的には今も昔も、
お客から指示されたようにセッティングし撮影するだけであった。
Gデザイナーさんだと手書き絵コンテくれたりする。
カクハンであれば、
実際にウチが撮影時に使用した背景紙なんかは当然、
最終印刷物にそのママ写っているわけだ。
切り抜きであれば、
ウチがカクハンとして撮ったヤツを
あちらさんが切り抜くことになる。

さて、
今節の話のポイントになる部分でもあるけど、
どうやらウチは今日まで、
その両者を明確に区別(意識)してこなかった(!)。

なんだか罪を白状するようで残念であるが、
このことは、
あまり誉められたものではない。

なせなら、
セットの演出上(?)、ところどころに
対象事物と背景との境に色相差や明暗差の極端に低い部分が
現れる可能性がある。これはある程度はやむを得ないものである。
しかし、
ブツと背景との境界線が曖昧な部分が多いと、
 〜極端だが赤いブツを赤い背景で撮るようなケース、
  さらに形が複雑だと恐らく最悪〜
それを切り抜かねばならない時、
パスを描く人がむちゃくちゃ大変だからである。
パス描いたことある人ならこのキツさ?がお分かりだろう。
冒頭のデザイナーさんのぼやきでもご想像つくだろうか。
「針穴糸通しを数時間ぶっ続けでやるようなもの」
とそれを表現した人もいた。

しかし、
切り抜きは大抵「1点いくら」で請求するか、
料金一式に組み込まれているかだろう。
作業が大変だったからといって
その分を上乗せできないのが辛いところだ。

であるから写真屋としては、
少しでも切り抜き作業をしやすいように
エッジがしっかりしている写真を撮るのが
後工程の人々に対する配慮である。
勿論場合によっては、
そのウマいヘタが最終結果(仕上がり)へ影響することも
十分あるだろうしね。

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さて、
この「パスを描く」というちょとしたことから、
私個人的に、
ウチ仕事の有様や態度を考え直すことがあった。
そのキッカケとなった仕事の話なんだけど、
続きは次号に。

次号に続く。

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