2008年08月16日

写真屋が「パスを描く」ということ(第4回)

「ゆりかもめ」車窓からレインボーブリッジ(この日雨でした)
前回の続き。

商業(品)写真の多くが
印刷媒体に使用される。
だから写真屋が印刷の業界用語を使っていたとしても、
大して疑問に感じることもないだろう。

かつて出版印刷関係に就いていた私は、
日常的に写真を仕事で扱うくせに
ウチの仕事にはほとんど興味が無かった。
カメラをいじることもほとんど無かった。
しかし、あることがキッカケで
両者が非常に近い関係にあることを
妙に実感したことがあった。

ウチの親父が、
印刷の業界用語を使っていたのを
耳にしたのだ。

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普段私の使うコトバを親父も使っているとは・・。

なんだか自分の意思で道を進んできたつもりが
知らずの内に轍を踏まされているような、
そんなちょっとした因縁めいたものを感じた。

じゃあそんな親父が
印刷屋の仕事に詳しかったのかというと、
残念ながらそうでもなかった。
単にお客サンと会話しているうちに
使う言葉が移った程度のようだった。
関心の低さは本人の性格の問題だろう。
だからウチでお客と話す同レベルで
私と親父との仕事会話が成り立つなんてことはなかった。
少々ガッカリである。
まあこれは私も写真屋について無知だったから
お互い様かな。

ただ、
「ここにトンボがどうのこうの・・」
(↑正式には「トリムマーク」という)
とか親父が喋っているのを聞いてしまうと、
あらためて印刷屋と写真屋が
互いについてに全く無関心ではいられない、
いやそれどころかもっと積極的に知っておく必要がある、
そう考えたのであった。

本当は最初からそうなるべきだが。

まあそんなカンジだから、
私の心配をよそに、
本件でウチの親父は意外と呑気だったのである。

ただこれは
印刷業界に対する無知からくるというのもあるが、
どちらかといえば切り抜きを含めて
レタッチに対する先入観の無さだと思う。
親父にとっては、
自分トコのPCでやるんだからパスもクソもないのである。
それがナニであろうが皆ここ数年で覚えたもので、
特定の作業に対するアレルギーみたいなものが
ないのだ。

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写真屋がPC使うずっと前から
レタッチという言葉はあった。
主に製版技術者の使う用語(作業)である。

私はかつて印刷屋の営業だった。
事務2名とバイトが数名、
前線に立つのは社長と私だけという小さな事務所だ。
その会社に工場は無く、
いわゆる「印刷ブローカー」だった。
だから下請サンとの関係は生命線なのである。

当時、知識経験技術などロクにない自分は、
バイトの面接程度であっさり採用されてしまった。
当時はすでに不況に突入していたし、
それはそれで嬉しかった。

右左分からぬまま勤務初日から現場に出された。
私の不勉強のおかげで
よくお客からも下請サンからもお叱りを受けた。
イヤミも言われた。
学ぼうとそれなりに努力はしたが
やがてそんな余裕がないほど忙しくなり毎日疲れきっていた。
勤務初日以降、丁寧な指導を受けた記憶はほとんど無い。
全てにおいて余裕のない零細企業にOJTもクソもない。
仕事が理由で胃が痛くなったり夜眠れなかったりを、
その時はじめて経験した。
それでも、
「うまくいかない・辛いのは自分の無能のせい」
「とにかく自分が頑張ればいいんだ」
などと言い聞かせ続けてこれたのは、
自分の5年後10年後のことを考えていたからこそである。

しかし、
私が入社する少し前から、
ここの社長は胃を患っていた。
私の採用時には既に手術の予定もあり、
数ヶ月の入院と後の通院が必要であった。
単にその間の自分の身代わり(単に動く部分としての)
が必要なだけであったこと、
単に誰でもいいから人を置いて、
まあ色々あるだろうけどなんとか仕事が回ってくれればいいや、
くらいのことであったのを知ったのは、
入ってからずっと後だった。
新人なんか本当は必要なかったのだ。


これが私の人生に於ける、
最初で最大の屈辱かもしれない。

自分という存在が蔑ろにされることほど、
悲しいことはない。

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ここの社長はいわゆる「仕事のデキる人」で、
そのことは私も含め周囲の人が認めていた。
と当時に、結構人使いが荒いよみたいなことも
取引業者からチラチラ聞かされていた。
「俺、やっぱり荒く使われてるんだな」
そう思った。

そうなるともう、
頑張る理由は無くなってしまう。
貰う給料の少なさと仕事の物量・責任の重圧との
アンバランスさばかりが自分の頭の中を埋め尽くした。
沸き起こる感情は「怒り」しかない。

結局、
後に社長とのちょっとした話がこじれたついでに、
逃げるように会社を辞めてしまった。

最後に挨拶回りに行った際、
一番お世話になったお得意の出版社編集の方に
「アナタ(私のこと)はね、間違いなく御社の一時代を創ったよ」
という編集者らしい?不思議な台詞で労っていただけたのが、
なによりの救いであった。

でもでもよく考えてみれば、
結局すべて自分がいけないのである。
社長を含めて周囲の人たちに対して
自分の価値を高めることができなかった、
自分がいけないのである。

「辞めないで頑張ればよかったじゃんかー」
「自分が優秀になって社長を見返してやれよー」
的な前向きな発想は、
根性も勇気も堪え性もない
ただの餓鬼だった私には出てこなかった。
「あそこに居続けて頑張ったら、どうなってたかな」
などと後から想像することはあったけど。
しかし・・。

私が辞めた半年後、
その社長は亡くなってしまった。

私がいた時から社長は、
活動量を抑える旨の医者からの指示を守ろうとしなかった。
酒も煙草も止めなかった。
事務をしていた奥さんをはじめ周囲の皆の、
「あんな感じで大変ことにならなきゃいいけど」
という危惧が、残念ながら現実になってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここでの出来事を
ウジウジ後から何度も思い返すことがあったが、
物事を他人のせいにすれば
益々悲しくなるばかりだ。
結局、
自分の身に起こったことは
皆自分のせいであるとの考えに、
帰着せざるを得ないのである。

精神的に未熟な私は、
このことに気付くのに何年もかかった。
ここでの出来事が
今の自分の仕事観にもかなり影響を与えているのは
間違いない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まあこのように、
上記の私の過去が、
印刷屋サンに対して何か特別な感情を
抱いてしまうことの理由にはなるかなと思う。

だが昔と違い、
いくらか成長した今の自分は、
ここでふと考えを巡らすこともある。
じゃ親父やこの印刷屋サンは今まで一体、
私の知らないどんな苦労をしてきたのだろうかと。

そして勿論、
亡くなってしまったあの社長のことも。


次号に続く。

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この記事へのコメント
2日連続の登場です。
君は文章を書くのが上手いな〜、俺も一生懸命書いてるけどだめだね〜。

>自分トコとはいえ、経営者でもないくせに商売を面白おか>しく書いている私は、
>本当のバチアタリなのかもしれません。
自分の思ったことを記入する場なのだし、そんなことは気にすることはないんじゃない?実際読んでいてとてもおもしろいからいいと思うけど。
それはそうと、俺のほうもたまにはのぞいてよ、最近さあのイシゴンとコラボってみたんだ。それ記事にしてあるから。
http://ameblo.jp/ksg-band/
Posted by KSG at 2008年08月16日 01:57
大阪のフラフラと申します。

以前から読み始めていまして、
お商売をされる、ひとの、
泥臭くも一生懸命で、いとおしい姿が、
東京の方らしい、スマートな文章で、ビンビン伝わってきまして、
すっかりファンになりました。

本日、バックナンバーを、全部、読みました。

これからも、がんばってくださいね。

Posted by フラフラ01 at 2008年08月16日 09:17
フラフラさん

コメントありがとうございます。
そうおっしゃっていただけるのは嬉しい限りです。
バックナンバー、結構なボリュームだとおもいます(笑)。
恐れ入ります。

たとえ吹けば飛ぶような古く小さな店でも、
そこで働く人とその周りには、
どんな興味深いストーリーが隠されているのかと
ついつい想像してしまいます。

このブログを通じて身に着けてしまった
クセなのかもしれません。

宜しくお願いします。
Posted by 東京下町バカ写真屋 at 2008年08月16日 14:46
KSGさん

毎度すいません。

ちなみにそちらのブログ、結構見てますよ私。
勿論音源もシッカリ聴いてます。
コメントはしてませんが(そのうちします)。

イシゴンさんて、あのイシゴンさんのこと?元気にしてますか?。
ていうか、まだ私のこと覚えているでしょうか。

とにかく音楽は楽しいですね。
おやじバンドが増えるのはいいことです。

Posted by 東京下町バカ写真屋 at 2008年08月16日 14:57
>ていうか、まだ私のこと覚えているでしょうか。
君みたいな音楽センスを持った人間忘れるわけがなかろう。

今度は皆でコラボが出来ればいいね・・・
Posted by KSGさん at 2008年08月17日 10:55