2012年08月07日

街の写真屋が暗室を潰す日(第3回)

場所が悪いと山火事にも見えます・2012隅田川花火大会にて


前回の続き。

暗室の露光作業であってもカメラと一緒で、
絞ればそれだけより多くの光を必要とする。
つまりより多くの時間を要するわけだ。


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少々前回と話がダブるが
お付き合いいただきたい。

露光時間は短すぎても長すぎてもムラができる。
均一な露光にはある程度の時間が必要だ。
でも仕事だし早く終わらせたい。
露光時間を短くしたければ絞りを空ければよいのだが、
そうすると前回にも書いた
「フィルム面(ネガ)の僅かな湾曲→つまり印画紙までの距離の差」
の影響を受けやすい、要するに「焼きムラ」を生じさせやすい。
ならば前回の終わりに書いた通り絞ればいいのだが、
そうすると今度は露光作業がかったるくてしょうがない。
短い時間でしゃかしゃかやってしまいたいのだ。
じゃあどうすればよいか。

だから「まず距離をかせぐ」
(35mmフィルムで80mmほどのレンズを使用する)ことで
フィルム面が僅かに湾曲していることの不利を補う。
これはカメラ撮影での
「近接だと周囲が歪むが遠景ではそれが解消されること」
と理屈は同じである。
そうした上で出来るだけ開放に近い絞り(「5,6」とか)で
より短い露光時間でプリントしてしまおうという魂胆なのだ。


自分で書いていてアタマこんがらがってきそうだが、
なんつったってウチの親父の経験則であるから、
論理的に正しいかとか、
他の人がやって実際にそうなるか等は保証はしない。

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そんなふうにして
例えばフィルム3本なら36×3なら108枚分、
つまり108回じゃんがじゃんがと露光していくわけである。
急いでやったら30分かからないかもしれないが、
そんなに楽しい作業ではないよ。
自分で楽しみながら撮ったものでもないし、
他人様のものだから気を遣うし。

でその後にプリント作業となる。
「現像」「停止」「定着」と
それぞれの工程でそれなりの時間を必要とする
(確かそれぞれ「60秒」「10秒」「30秒」くらいだったかと思うが、
 薬品メーカーや希釈度でも違いがある)。
しかも目視していなければならない。
108枚なら108枚すべてをである。

そして水洗いであるが、
ウチはドラム式の水流でぐるぐる回るタイプの水洗い機がある。
それに突っ込んで放っておく。
この水も、
零細商人にとっては非情にキツいものである。
キッチリ測ったことはないが、
風呂の水の半分以上は使っていたかもしれない。
フィルム10何本分とかならまだしも、
たとえ1本だったとしても
使う水の量が単に枚数に正比例しているわけではない。
枚数が少なくてもそれなりに水は使うのだ。

十分水洗いが済んだら
今度は絵面をチェックしつつ乾燥である。
ウチはたしか新聞紙を敷いた上に並べていただけだ。
で、自然に乾くのを待つわけである。

ちなみに、
印画紙には「RC」「バライタ」と
二種類の紙がある。
一般的なのは前者であり、
ポリエチレン(だったっけ)でコーティングされて
扱いが容易である。
当然ウチもそちらを使っていた。

伝統的な印画紙?が後者である。
昔のモノクロプリントお持ちのかたは、
それが艶がなく経年劣化で黄ばんだりしてかつ
若干肉厚であれば、
おそらくバライタ紙であろう。
RCが水洗い最低2分あたりでいいの対して、
バライタは確か1時間くらい必要だったかと思う。
バライタはコーティングなどされていないまさに「紙」であるから、
水分は完全に染みこんでしまう。
薬品は十分に落とさないとプリントの質低下を招いたり
もちが悪くなったりする。
水洗促進剤というのもあるが
それを使っても半分くらいになるだけで、
いずれにしても面倒なのだ。
それだけでなく普通の紙が濡れるのと同様
プリント後はフニャフニャになり、
フラットニング作業(乾燥を兼ねて平らにすること)が必要になる。
私もレンタル暗室で過去にバライタやったことがあるが、
乾燥後そのフニャフニャのプリントを寝押ししていただけである。
昔はこのバライタしかなかったのだから、
さぞや皆さん大変だったろう。

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さて、
仮に昼頃に始めたとして、
季節にもよるがすべて完了するのが
だいたい夕飯前くらいだろうか。
勿論余計な仕事などが無ければ、である。
いやむしろ他の仕事のせいで
プリント作業を途中で止めたりする方がリスクが高いかな。

これら一連の作業を、
それがたとえフィルム一本であっても
やらなければならない。
でフィルム現像なら一本500円プラス、
プリント一枚いくら×枚数である。
それだけのことに
一日の多くを費やすことになるのだ。
それだけでなく、
一人分のシャワーくらいの水も使っている(たぶん)。
使用する薬品もそう長く使いまわしできるでもなく、
しかも原液から水で希釈して溶液を作るのも
なかなかかったるい作業である。

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とまあこんな具合に
ウチのモノクロ現像+プリント作業について
簡単に説明させていただいた。
秘儀も裏ワザというほどでもないが、
ウチなりの工夫もあるという話であった。

もうお分かりかとは思うが、
楽しい?暗室作業も
それが仕事であるという観点からすると
もはやとんでもないシロモノであると
言わざるを得ない。
モノクロ現像・プリントの料金を
一体幾らにすれば適正価格といえるのだろうか。
かつてお世話になったレンタル暗室の先行きがどうかなど、
気にもなってくるってもんだ。

次号に続く。

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